Column木とともに、人とともに。

2020年12月01日

[施工例インタビュー]そこにしかない建築をつくる

今回インタビューをさせていただいたのは、東京の株式会社テンジンスタジオ 加藤代表様。個人住宅だけでなく、園舎、店舗、医療施設、オフィスビルの設計まで、幅広く携わっておられます。“そこにしかない建築をつくる”というコンセプトのもと、土地や場所の個性と、使い手の個性をつなぎ合わせる設計をされています。

その場にしかない環境を取り込む

「たとえば、リノベーションであれば既存の躯体自体にもストーリーがあります。まっさらに解体してしまうと、そのストーリーや、建物が経験してきた今までの年月の積み重ねがなくなってしまいます。既存の梁や柱などを活かして“時間軸”を紡いでいくことで、“奥行き”がある空間を作ることができます。

また、新築でも、風の流れ・光など、その場にしかないまわりの環境を取り込むことで、より豊かな空間になります。さらに、建物の外観も町に馴染むだけでなく、その建物があることでまわりの環境がより良くなることが大切です」

「ぽっかぽっかナーサリー相模原園」について

まわりの環境という考えは、「ぽっかぽっかナーサリー相模原園」の設計でも存分に発揮されています。しかしそれは、決して簡単ではない敷地条件から生み出されたものでした。

「計画地は住宅やビルなどが混在しているエリアです。まず、住宅街から見える方面は、家のような外観にして環境に馴染ませました。一方、ビルに面する方面は、その囲まれた環境を借りて“中庭”を作りました。中庭では天然木の外壁を貼り、オモテと中庭でまったく違う印象になっています。今回の園を建築することで、まわりにより良い環境を作り出すことに配慮しました」

住宅街側の外観

中庭側の外観

素材への考え方

園舎設計においては、以前設計に携わった、あの有名な「川和保育園」がベースにあるといいます。素材への考え方も川和保育園から学びました。

「川和保育園の“子供たちには本物の素材に触れてほしい”という考えに触れ、その思いがより強くなりました」

「ぽっかぽっかナーサリー相模原園」も、こどもたちに“本物の素材”を触らせてあげるために、素材もこだわりました。

 

内部の素材は、フローリングをメインに考えていました。造作や家具など、内装はすべてフローリングを軸にコーディネートしました。そうすることで統一感が生まれ、落ち着きのある空間に仕上がりました。

 

今回採用した大和屋オーク多層フローリングの巾150mmという幅広が、園舎の開放感のある広い空間にとても合っています。また、床暖房エリアと床暖房をつかっていないエリアを同じフローリングを採用したことで、より広がり感を持たせることができました。色や木目もハッキリしているので、素材感が感じられます。硬すぎず、柔らかすぎず、傷もつきにくく、使用感も良いですね」

 

”居場所を作り上げるきっかけ”を作る

一貫したコンセプト・素材へのこだわりを感じさせつつも、どこか余白を残した空間に感じられるのは、加藤代表の思いがあるからでした。

 

「設計者が作り込みすぎるのは良くないと思います。作り込みすぎず、保育士や子どもたちが自主的に居場所をつくり、活動の幅を広げられるようなきっかけを作ってあげることが大事だと考えています。」

これからも、さまざまな場所で、その場所の環境に寄り添った建築を手掛けていきたいといいます。

「今後は、様々な場所で、できれば海外でも、様々な建物を手掛けていきたいですね。やはり、建物が建つ“場所”が大切。素材についても、その場所にあるものを使っていければ一番良いですね半分はひとのため、そして半分は場所や地球のために”、ぐらいの考えでやっていければ良いと考えています。」

■株式会社テンジンスタジオ 加藤代表

地形に寄り添い、周囲の景観にふさわしい素材を選び、その場所で得られる眺めや光・風を取り入れて、”そこにしかない建築”をつくる。住宅だけでなく、園舎、店舗、医療施設、オフィスビルの設計まで幅広く行っている。